京都地方裁判所 平成5年(行ウ)9号 決定 1993年11月05日
申立人
京都市
右代表者市長
田邊朋之
右訴訟代理人弁護士
田辺照雄
右同
崎間昌一郎
原告
錦見美千代(X)
外三七六三名
右訴訟代理人弁護士
籠橋隆明
外二一名
被告
池尻興産株式会社(Y2)
右訴訟代理人弁護士
中山哲
被告
株式会社北摂カントリー倶楽部(Y3)
右代表者清算人
真野潤
被告(被参加人)
田邊朋之(Y1)
右訴訟代理人弁護士
田辺照雄
右同
崎間昌一郎
理由
第四 当裁判所の判断
一 民訴法六四条の補助参加は、他人間に係属する訴訟の結果につき実体法上利害を有する者(補助参加人)に、訴訟当事者の一方(被参加人)に補助することを認め、これを勝訴させることによって補助参加人の法律上の利益を保護するために認められた制度である。したがって、第三者の補助参加の申立が許可されるためには、その者が、「訴訟ノ結果ニ付利害関係」(参加の利益)を有する場合でなければならない。「訴訟ノ結果」につき、利害関係を有するとは、当該訴訟の結果、即ち本案判決の主文における訴訟物たる権利ないし法律関係の存否自体について法律上の利害関係を有することをいう。そして、右法律上の利害関係を有するというには、前示補助参加制度の趣旨に照らし、被参加人を勝訴させることにより補助参加人自身の法的利益が保持される場合であることを要し、本案判決の主文における訴訟物の判断との関係において、補助参加人と被参加人とが実体法上利害を共通にする場合でなければならない。
二 本案事件の訴訟物
1 本案事件は、京都市民である原告らが、次の差額金が京都市の損害であると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、申立人を代位して、被告田邊、同池尻興産株式会社、同株式会社北摂カントリー倶楽部に対し申立人に対する損害賠償を請求する住民代位訴訟である。
右被告池尻興産、同北摂カントリー倶楽部、申立人との間の京都簡易裁判所平成四年(ノ)第九〇号損害賠償調停申立事件における調停に代わる決定に基づき、申立人の市長である被告田邊らが京都市西京区大原野石作野一七五二番六山林外一四筆の土地及び同土地上の立木一切の購入代金として被告池尻興産、同北摂カントリー倶楽部に支出した金四七億五、六二三万一、六八四円のうち、右土地等の適正な価格である金四億〇、一九三万五、〇七一円との差額金四三億五、四二九万六、六一三円。
2 住民代位訴訟の訴訟物につき検討する。住民代位訴訟は、自治体が違法行為をした職員等に対して有する損害賠償請求権を適切に行使していない状態を是正するため、本来の請求権の帰属主体である自治体に代位して右請求権を行使する訴訟である。そして、地方自治法二四二条の二が自治体の職員等に対する差止め等の請求(同条一項一号ないし三号)の他、右損害賠償等の請求(同条一項四号)をも認めている趣旨は、単に財務会計に関する適正な行政の執行を確保するのみならず、自治体に生じた損害を現実に填補させることにより自治体の財政の健全を維持しようとするものと解するのが相当である。そうすると、本件の住民代位訴訟の訴訟物は、申立人の被告らに対する損害賠償請求権をいうと解すべきである。
三 参加の利益について
右訴訟物に関する判断に関し、申立人に被告田邊に対する参加の利益が認められるか否かにつき検討する。
本件訴訟において被告田邊が勝訴すれば、判決主文において申立人が被告田邊に対して損害賠償請求権を有しない旨の申立人にとって不利な判断がされる。他方、被告田邊が敗訴すれば、判決主文において申立人が被告田邊に対して損害賠償請求権を有する旨の申立人にとって有利な判断がされることとなる。そして、本件訴訟の既判力は、訴訟物たる損害賠償請求権の存否に関し、申立人にも効力を及ぼす(民訴法二〇一条二項参照)。だから、申立人が既判力によって自己に帰属する損害賠償請求権の存在を争う被告田邊のために補助参加をすることは、民訴法の基本原理である対立当事者による訴訟構造に反し、申立人と被告田邊の利害が相反することは明らかである。
したがって、本案事件の訴訟物である損害賠償請求権の存否に関する判決主文の判断において、申立人は、原告らと法的利害を共通にするが、被告田邊とは法的利害が相反し対立する関係にある。そうであるかち、申立人には、本件訴訟において被告田邊に補助参加する利益はないものと解すべきである。
四 申立人の主張に対する検討
1 民訴法の基本構造との関係について
(一) 申立人は、原告らとの利害は必ずしも同じではないから、本案事件への参加は何ら民訴法の基本構造に反しない旨主張する。
確かに、住民代位訴訟において、住民は、自治体に対する債権者としてではなく、いわば公益の代表者として、その訴訟を提起、追行する権能が与えられており、この訴訟は、その目的及び性質において、債権者による一般の代位訴訟(民法四二三条)とは異なる側面があることは否定できない。
そして、住民代位訴訟は、自治体そのものの利益を図るためというよりは、むしろ、住民全体の利益を図るために提起する訴訟であるといえる(前掲最判昭五三・三・三〇参照)。
しかし、住民は、自治体の執行機関又は職員のした財務会計上の行為が違法であると考えた場合、自治体の職員等に対する損害賠償請求権が適切に行使されないでいる状態を是正するため出訴し、自治体への損害の填補を求めているのである。そして、前示のとおり、住民が勝訴すれば、判決主文で自治体に損害賠償請求権が帰属する旨の有利な判断がなされ、右判決が確定すれば、その既判力は自治体にも及ぶのである。
そうすると、住民は究極的には自治体の利益のために出訴するものということができるから、たとえ、自治体が、自己に帰属することが確定した損害賠償請求権を否定するものであっても、右賠償請求権の存否をめぐり住民と対立する当事者のために補助参加をすることは、前示のとおり、対立当事者による訴訟構造に反することが明らかである。
(二) もっとも、当該自治体の行政庁が自ら又はその職員がした財務会計上の行為を適正であると判断している場合、右行政庁の立場と右行為が違法であるとして損害賠償を求めている住民の立場とは同じものではない。そうすると、右行政庁は裁判の資料を充実させ、適正な裁判を実現するために、行訴法二三条により当該訴訟に参加して訴訟を追行することが可能である。しかし、自治体そのものの立場と行政庁の立場とは区別して考えるべきである。又、参加の利益の存否にかかわらず、関係行政庁を攻撃防御に参加させ、訴訟資料を豊富にし、適正な裁判を実現することを目的とする行訴法二三条の参加と第三者の利益を保護する目的で第三者に参加の利益がある場合に限り許される民訴法上の補助参加とは、制度の目的が異なるから、行訴法二三条の参加が許されるからといって、直ちに民訴法の補助参加が許されるとはいえない。
2 参加の私益について
(一) 申立人は、自治体の執行機関又はその職員がした財務会計上の行為が適正であるとの申立人の判断を前提にすれば、申立人と原告らと利害は反するから、申立人に参加の利益がある旨主張する。
しかし、前示のとおり、本件の訴訟物たる損害賠償請求権の判断に関し、申立人と原告らとの利害が反するとはいえない。
したがって、申立人の右主張は失当である。
(二) また、申立人は、本件補助参加を認めなければ、法の理念たる正義、公平に反する事態を生じ、被告田邊から受けるべきでない経済的利得を拒否する申立人の利益を無視することとなる旨主張する。
しかし、申立人に被告田邊に補助参加する利益がないことは前示のとおりであるし、受けるべきではない経済的利得を拒否する利益は申立人の主観的、事実的な利益にすぎず、法的なものとはいえないうえ、申立人のいう法の理念たる正義、公平に反する事態は、前示の行訴法二三条の行政庁の参加によって回避しうる。
したがって、申立人の右主張も失当である。
第五 結論
以上のとおり、本件参加の申立は、参加の利益を欠くから、これを却下する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 河村浩)